未知の国へ
マルセイユ石けんビッグバーが日本に着きました。ところが誰もが一様に困惑顔、というよりは呆れ顔。その表情は「売れるわけがないでしょう!」と言っているようでした。2本の石鹸のうち一本を切ってみました。スーッと難なく切れて、きれいな緑色をした断面が現れました。真ん中を押すとまだ幾分柔らかい。さらに小さく切って、スタッフはそれぞれ自宅に持ち帰ることにしました。とにかく使ってみることです。そして10日間は沈黙を守ること。その10日間の長かったこと!お互いの目が何か言おうとしていても、無視、ひたすら無視。そして10日目、顔を合わすなり、お互いに叫びました。「スゴ〜ィ石鹸! 絶対にやりましょう!」
石けん屋さんが書いた石けんの本
実は、日本にもマリウス・ファーブル社のマルセイユ石けんをご存知の方達がいらしたのです。駐日フランス大使夫人は別として、海外で長く過ごされた日本の外交官やビジネスマンの方達。
そして日本の老舗の石けん屋さんです!「玉の肌石鹸」と「ミヨシ」の会長・社長でいらした三木春逸・治雄さんのお二人は、早くからマルセイユ石けんのすばらしさに気がついていらっしゃいました。お二人の共著に≪石けん屋さんが書いた「石けんの本」≫があります。その中でマルセイユ石けんのことを、「品格のあるもの、石けんの原点」と述べておられます。そしてかのマリー・アントワネットもマルセイユ石けんを使ったに違いないと楽しく空想していらっしゃいます。この「石けんの本」には石鹸の歴史や石鹸の作り方など、私たちが知りたい石鹸のことが書かれています。何よりも石鹸作りを大切に思うお二人の姿に感動します。ご興味のある方は是非お読みください(初版1992年 三水社)。
パティネ・スポーツさん、そして西尾忠久氏と日経新聞
マルセイユ石けんビッグバーを最初に扱ってくださったのはパティネ・スポーツです。パティネ・スポーツは東京都港区虎ノ門2丁目、アメリカ大使館正門に近い共同通信会館(当時共同通信ビル)一階にあります。オーナーの確かな品選びと、目の肥えたお得意様を持つ高級紳士物の専門店です。
パティネ・スポーツに置かれたマルセイユ石けんビッグバーは、偶然故西尾忠久氏のお目に留まり、日経新聞の記事になりました。1992年2月8日のことです。マルセイユ石けんビッグバーはその後もたくさんの取材を受けることになりますが、西尾先生のこの記事は今も大変懐かしく、最も大切なものの一つです。ご紹介しましょう。
ファーブル社のマルセイユ石けん300年変わらぬ製造法
クオリティ グッズ 日経新聞社1992年2月8日 夕刊
「技術の進歩というけれど、人にやさしくないものもある」ことに気づかせてくれるのが、三百年前のせっけん製造法を守っているフランスの、マリウス ファーブル社のサヴォン・ド・マルセイユ(マルセイユせっけん)。オリーブ色をしていて、ぼくたち年配者は見たとたんに戦前のせっけんを思い出すが、顔を洗ったあとつっぱらないし、家人にいわせると、食器洗いの洗剤を使ったあともこれで手を洗っておくと肌がつるつるしてクリームがいらないらしい。一年前のケチャップのシミが洗い落ちたという人もいる。ヨーロッパでは小児科医や皮膚科医がすすめているほどだから、赤ん坊やアトピー症の人でも大丈夫。「マルセイユせっけん」の呼称は、1688年にルイ14世の財務総監コルベールが王令によってせっけん製造の独占権をマルセイユに与え、原料と製造に関する厳格な規則を設けたため。オリーブ・ペースト72%で、着色料や香料の混入は一切だめ。もちろん泡立ちをよくする化学薬品や合成の界面活性剤なども入っていない。地球とひとにやさしいせっけんといえようか。
オリーブとココナツオイル、パームオイルのみでつくるため数に制限がある。38センチ×8センチ×8センチの棒状で木箱入り。付属のピアノ線で切って使う。
|