マルセイユ石けんビッグバーの製造方法について
マルセイユ石けんビッグバーは今も一つひとつ職人の手作業で、1か月以上の時間をかけて作られます。
長く、多くの人々に支持され続けたビッグバーには、職人から職人へと大切に受け継がれてきた“昔ながらの=à l’ancienne”製法が不可欠です。
製造工程
- 煮る・洗う
原料をショードロンと呼ばれる大釜で10日間煮ます。現場では石けんを炊くといいます。この工程は生の油がソーダと反応して石けんになるのを見届ける行程です。
頃合を見計らって、ペースト状の石けんを塩水と真水で洗い、余分なソーダ分を取り除きます。
- 流し込み・粗乾き
ペースト状の石けんを未だ熱いまま、可動式の樋で乾燥槽に流し込み、南仏特有のミストラル風で48時間粗乾きさせます。
- 切り出し
石けんを35キロの大きな塊で切り出し、更に2.5キロの棒状にカットして、一本ずつ刻印し、乾燥棚で約3週間自然乾燥させます。
煮て洗って、煮て捨てて、この繰り返しに十分な時間をかける、これがビッグバーの基本的な製法です。グーテ・ド・サヴォン(石けんの味見)は口に含んで石けんのまろやかさと行程の進み具合を見る、職人の腕の見せ所でもあるのです。
最近は時間をかけない石鹸作りが増えているとロベール・ブスケは嘆いています。昔と違ってきちんと製法を守らなくても罰則規定がない。だからたくさんのマルセイユ石けんが市場に存在することになります。おまけに最近はマリウス・ファーブルのビッグバーにそっくりの石鹸まで登場しているそうです。嘆いて見せてもブスケさんは心底腹を立てているとも思えません。「使えば違いがわかる」、そう確信しているようです。「成功の犠牲という言葉もある」と反対に教えられもしました。
マリウス ファーブル社の乾燥室は北側に窓を開け、ローヌ河から海へ向かって吹く北風ミストラルを利用して石けんを自然乾燥させています。ゆっくり自然乾燥させるのは生地が滑らかでキメの細かい美しい石鹸を作るため。
ビッグバーを切ったときのモアレ状の断面がそれです。柔らかくてもしっかり、硬くなってもシットリ、これが本物のマリウス・ファーブル社オリジナルのビッグバーです。
ミストラルと言えば、作家のピーター・メールが「南仏プロヴァンスの12ヶ月」の中で書いています、「時には15日間ぶっ続けに吹き荒れて、樹木を根こそぎにし、車を覆し、窓を破り、老人を溝にたたきこむ。ミストラルは青白い幽霊の怨嗟の声さながらに家々を吹き通し、風邪を流行らせ、家庭不和を引き起こす。人々は仕事を投げ出し、歯痛や偏頭痛に悩む。プロヴァンスでは行政に問えない不幸は全て神風ミストラルのなせる業と土地者たちはいささかマゾがかった誇りを持って言う」と。
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